前回は、「修繕積立金」と「管理費」の区分の重要性について確認しました。今回は「修繕積立金」の見直しについて考えていきます。

 

以下のような相談はほとんど毎月入ってきます。

「築10年目の60世帯7階建の分譲マンションに住んでいます。先だって定期総会の議案書に修繕積立金の値上げについて記述がありました。長期修繕積立金が将来不足する事が判明したので,値上げをしたいです。
しかし問題なのはその金額が来年5,000円、さらに3年後に10,000円値上げし、従来からの積立金4,000円からみて、非常に大幅な値上げとなっていること、3年後には19,000となり約4倍以上の値上げとなることです。」

これだけの値上げとなれば、毎月の管理費や住宅ローン・修繕積立金を計算してやっとマンションを購入した区分所有者が憤慨するのも理解できます。
多少の値上げは覚悟していると思いますが、この上げ幅であると資金計画が狂ってくるものです。

詳しい話を聞かないとその金額の根拠は分からないのですが、マンションの規模・駐車場収入の有無やマンション独自の特殊事情などの要素も考えなければなりませんが、一般論でみた場合は、今までの修繕積立金の設定が低すぎて、将来の修繕工事費を賄えないことがハッキリしたため、理事会が値上げを提案したと考えられます。
平成10年から20年にかけてのマンションの修繕積立金の平均は、一戸当たり月額11,000~12,000円という数字が出ております。

 

マンションの分譲会社は顧客の毎月の支出が少ないほど売りやすいという事情があり、修繕積立金を安い金額で設定しがちです。したがって分譲後管理組合を結成したら早い段階で修繕積立金が適正であるか否か検討を加えておくことが必要です。

修繕積立金が適正であるか否かは、「長期修繕計画表」をキッチリ作成していくことによって判断することができます。

購入時に、分譲会社から「期修繕計画表長」が作成され、皆さんの手元にわたされているはずです。これにより今後20年、30年後までに、どのような修理が必要で、費用がいくら掛かるかが記載されています。一戸あたり一か月に必要な修繕積立金も算出されています。それを現在の修繕積立金と比較すると、必要な値上げ額が出てきます。それにより値上げ額を決定していくことになります。

しかし、この表は分譲会社が作成したものであり、上記のような事情から安く設定されている可能性があります。この表は一般人が作成しようとしても専門知識がないとできません。
作成や見直しにあたっては、マンションの改修工事に慣れている管理会社、一級建築士事務所又はマンション管理士に依頼して作成することをお薦めします。

また、一度作成しても、技術的な変化、物価の値上げ等があり5年程度のサイクルでの定期的な見直しをすることにより、常に最新の状態にしておきたいものです。

 

値上げのほかに、一時負担金の徴収や借入れの方法もありますが、高齢化社会に入った現在、年金生活をしている老齢者には一時負担金徴収は賛同を得られにくく、また、借入れは、いずれ返済をしなければいけませんから、一時的な資金不足対策として利用するだけで、根本的な解決にはなりません。  

 

なお、実務的には、区分所有者の負担軽減を図るため、管理委託料等のいわゆる管理費が、当初高めに設定されていることが多いため、管理会社との交渉又は管理会社の変更を行うことにより、管理費を下げ、その分を修繕積立金に廻すことにより上げ幅を圧縮するなどの方法がとられています。

 

また、長期修繕計画表は作成者にもよりますが、安全を考え価格が高め設定されやすいということも記憶しておいて下さい。
将来の工事費を設定するにあたって、今現在のギリギリの単価で計算をすることは不適切なためです。将来のある程度の変動リスクにも耐えられるような設定が望まれます。

 

最後に修繕積立金の変更は、管理規約の内容により普通決議又は特別決議となります。

最初に、あなたのマンションの「管理規約」を確認してください。

「修繕積立金の改定」が「規約の変更」にあたるのであれば、「特別決議」事項となりますので、その場合は必ず「区分所有者(組合員)およびその議決権の各四分の三以上の多数による決議」が必要です。

「修繕積立金の改定」が「規約の変更」にあたらないのであれば、「普通決議」事項となりますので、「区分所有者(組合員)およびその議決権の各過半数による決議」が必要です。

 

≪参考 マンション標準管理規約(単棟型)第28条≫

(修繕積立金)

第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。

 一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕

 二 不測の事故その他の特別の事由により必要となる修繕

 三 敷地及び共用部分等の変更

 四 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査

 五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

 

2 前項にかかわらず、区分所有法第62条第1項の建替え決議(以下「建替え決議」という。)

又は建替えに関する区分所有者全員の合意の後であっても、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(以下 本項において「円滑化法」という。)第9条のマンション 建替組合(以下「建替組合」という。)の設立の認可又は円滑化法第45条のマンション建替事業の認可までの間において、建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、修繕積立金を取り崩すことができる。

3 管理組合は、第1項各号の経費に充てるため借入れをしたときは、修繕積立金をもってその償還に充てることができる。

4 修繕積立金については、管理費とは区分して経理しなければならない。