日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】 一級建築士を中心とした、建築系専門資格者によって構成される研究会です。営利企業とは異なるNPOとしての客観的・公正な支点から、適切な建物検査のあり方を研究しています。第三者として厳しい判断やアドバイスを行い、消費者が安心して住宅を購入できる環境作りを目指します。 |
建物の地盤造成に問題があった場合に、造成作業をしていない建物建築請負業者に対しても「地盤調査義務」や「地盤に対応した基礎を措置する義務」を認定した判例。
〔福岡地裁平成11年10月20日判決〕
【建物プロフィール】
造成された土地上〔造成は別会社〕の木造軸組み2階建て瓦葺き住宅〔住宅金融公庫利用〕。
新築引渡し後3年弱で、建物ベタ基礎の底板中心部に南北に走る亀裂を発見する。沈下の状況は建物北辺中心部付近を基準として、南側角0.45cm、西側角5.6cm、北側角2.6cmそれぞれ沈下。
【入手経路】
請負契約(請負代金1432万9591円)
【相手方】
工事請負人(元請)
【法的構成】
(主体的)不法行為
(予備的)瑕疵担保(修補に代わる損害賠償)
【期間制限】
争点とならず。
【判決の結論】
ほぼ全面的に認容。立証のない移転雑費部分のみ棄却
請求額⇒1217万4131円
認容額⇒1207万4131円
【認定された欠陥】
スエーデン式サウンディング試験の結果によると、N値1以下の自沈層が本件土地東側の浅い部分、西側擁壁の深い部分に存在した。また、N値3以下の自沈層が森戸の多い西側部分で1~1.5mの厚さで存在していた。
本件建物にはこれらの地盤状況に対応した基礎が施工されていない。
なお、公庫仕様3.1.1参照
【コメント】
建物の地盤造成に問題があった場合に、造成作業をしていない建物建築請負業者に対しても「地盤調査義務」や「地盤に対応した基礎を措置する義務」を認定した判例。また損害額を算定する場合の考え方も判示している。
本件で、相手方は、地盤沈下の予見可能性を争い、また、「建物」建築請負契約だから、地盤の沈下は「建物」の瑕疵にあたらない、として争った。
本件判決は、この建築業者に対し、業者は安全性を確保した建物を建築する義務を負うから、建物基礎を地盤の沈下または変形に対して構造上安全なものとする義務を負うと判示した。また、その前提として、建物を建築する土地の地盤の強度についての調査義務や、調査の結果強度が不十分であれば、転圧や支持杭の施工を行う義務を認めている。予見可能性の点については、単に造成業者の言を信じただけでは建築業者は免責されない旨、指摘している。
また、相手方の「取り壊し立替は、瑕疵補修が不能(な場合である)と解すべきであり、その場合は損害賠償額は交換価値の下落額とすべき」との主張に対して、本件判決は、損害賠償額の算定にあたり「現状では、建物としての価値を有するとは到底考えられず、転売にも耐ええるような商品価値を備えるためには基礎の割れを補修し、今後の沈下が防止されるような補修工事が必要である」との判断を示し、「補修工事費用が不法行為前の本件建物価格を上回るなどして不当に高額でない限り、本件建物において右補修工事相当額でない限り、本件建物において右補修工事相当額の価値の低下があるもと認めるのが相当である」と判示した。
本件の認定に当たって裁判官自身が体験した「室内で立つと西側への傾きを感じ、歩行すると、軽い乗り物酔いのような違和感を感じる状態」という認識が、判決の結論につながっていると思われる。
用語説明
スエーデン式サウンディング試験
戸建住宅向けに普及している簡易地盤調査の手法の1つ。省略してSS試験ともいう。方法は、ロッド(鉄管)の先端にスクリューポイントと呼ばれる円錐形の錐(きり)をつけて、地面に突き立て、段階的に100kgまでの鉄の重りを載せた時の沈み具合を測定する。ロッドが下がらない場合は、ハンドルをつけて回転させながら貫入させ、その回転数(Nsw)を25cmごとに最大10mまで記録する。特に浅い部分で精度の高いデータがとれる。
地盤調査
地層の配列・分布、土の密度・固さなど、地盤の物理的・力学的・化学的な性質、地下水の状態に関して調査すること。調査の方法には、既存の文献・試料や地質図などを用いたり、現地を視察するなどして行う予備調査と、ボーリングや貫入試験などによって、建物の設計・施工に必要な個別の地盤情報を得るための本調査がある。住宅をはじめ建物を建築する際には不可欠な手続き。地盤調査によって適切な基礎構造などを決める。
<参考文献>
判例タイムズ社
民事法研究会
日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】