日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】

一級建築士を中心とした、建築系専門資格者によって構成される研究会です。営利企業とは異なるNPOとしての客観的・公正な支点から、適切な建物検査のあり方を研究しています。第三者として厳しい判断やアドバイスを行い、消費者が安心して住宅を購入できる環境作りを目指します。 

中古住宅の売買で重大な欠陥が見つかり、その損害賠償額は建物代金相当額のみとした判決

                                        

Q. 瑕疵〔カシ〕がある建物で売買契約を結んでしまいました。いくらの損害賠償金額が可能でしょうか?

A. 建物の売買で、買主が建物の瑕疵を理由として損害賠償額として認められたのは瑕疵担保責任に基づき建物代金相当額についてのみ認容されました。転居費用、仮住費用、調査費用は否定されました。(東京地裁平成14年1月10日判決)

                                         

判決内容

「建物プロフィール」

木・鉄筋コンクリート造スレート葺3階建て住宅

「入手経路」

中古住宅売買契約【代金は土地・建物を合わせて3200万円】

「相手方」

売主

「法律構成」

瑕疵担保(かしたんぽ)責任に基づく損害賠償請求

「判決の結論」

瑕疵担保責任に基づき建物代金相当額について損害賠償請求を認容。転居費用、仮住費用、調査費用は否定。

 請求額⇒1512万円

 認容額⇒1282万円

「認定された欠陥」

原告主張の欠陥をすべて認定

① 地盤の不動沈下・基礎構造の欠陥

② 壁量不足

③ 火打ち材の欠落

④ アンカーボルトの欠落

⑤ 雨漏り・白蟻被害による部材の腐蝕

「コメント」

1.中古住宅の売買契約の事案(代金は土地・建物を合わせて3200万円)で、解体・再築以外に補修することが困難な欠陥の存在を認めつつも、建物代金額(1282万円)を損害賠償額の上限とした判決です。

①民法570条の損害賠償の範囲は信頼利益に限定されますが、「売買代金と売買時に客観的取引価格との差額は信頼利益に属する」としたうえで、

②本件建物の売買価格は代金額から土地代金分(近隣実勢価格から算出)を控除した1282万円であり、この売買価格の損害賠償を認めました。

2.原告は、主体的請求において、①取り壊し立替費用相当損害金に付き上記1282万円を上限として建物瑕疵の損害を計上したほか(新築建物取得を回避)、②調査鑑定費用、③仮住まい費用,④引越費用をも請求しましたが、判決では「瑕疵ある目的物の価格が責任の上限となる」として②~④は否定されています。

3.担保責任における損害賠償を「信頼利益」ととらえ、目的物自体に関する損害賠償を対価の限度に制限する考え方です。

4.なお、本件においては、地盤(擁壁)自体に欠陥が存することから、土地代金に食い込んだ損害賠償請求、あるいは、契約解除も可能な事案であるようにも思われます。

■用語解説

■売主の 瑕疵担保責任

民法570条

売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、 第566条 の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

解説

民法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)

意義

売買契約の売主には瑕疵のない目的物を引き渡す義務があるから、瑕疵のある物の引渡しは債務不履行であり、したがって570条は債務不履行責任についての特則であると考える。

隠れた瑕疵

「隠れた」とは、買主が瑕疵の存在について善意・無過失であることを意味すると解されている。また、何をもって「瑕疵」とするかは、契約の目的によって異なる。

行使期間

本条が準用する566条3項によって、瑕疵担保責任が追及できる期間は、買主が瑕疵を知ったときから1年間に制限されている。

効果

瑕疵担保責任を追及する場合、買主は損害賠償請求ができる。また、瑕疵のために目的を達することができないときは、契約の解除をすることができる(566条1項の準用)。

契約責任説によれば、瑕疵担保責任は債務不履行責任の特則であると考えられるから、買主は損害賠償請求権・解除権のみならず、契約の効果としての完全な履行を請求する権利があるとされる。すなわち、瑕疵の修補を請求し、あるいは代物を請求する権利もあるとされる。

■履行利益・信頼利益(りこうりえき・しんらいりえき)

債務者が契約に関して損害賠償請求をするにつき、どんな利益が害されたかを問題とする場合の区別。契約が約定どおり履行されれば債権者が得たであろう利益、例えば利用とか転売による利益等を履行利益といい、無効の契約を有効と信頼したために失った利益、例えば有効な土地の売買契約と信頼して土地を見に行った費用とか、ここに建築するため用意した資材等を信頼利益という。この区分はドイツ民法にならうものであり、わが民法にはこのような区分はないが、一般的には債務不履行による損害賠償は履行利益のみが対象となり、信頼利益は、いわゆる契約締結上の過失のような場合に限られると解されている

<参考文献>

判例タイムズ社

民事法研究会

 

日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】